町長日記 平成28年10月29日(上野村の視察)

  上野村の視察

 10月26・27日と、まちづくり推進課の生田修大氏とともに、群馬県上野村へ出張しました。これは、「小さくても輝く自治体フォーラム」の主催する、上野村の取り組みを拝見する現地研修の企画でした。

 「小さくても輝く自治体フォーラム」は、自治体問題研究所に事務局を置く団体で、全国の中小町村の首長・議員などが加盟している組織です。もともと、平成の大合併を契機に、自立の道を選んだ自治体が連合して互いに自立の道を学びあうために結成されたものです。

 今回は、群馬県南西部の山間部に位置する、人口1300名ほどの上野村に伺いました。実は上野村は、1980年代に日航機が墜落した場所として有名です。面積は182平方キロ、その94パーセントが急峻な山岳という、可住地域の少ない村です。しかし、近年は、東京電力神流川発電所が建設され、その固定資産税が18億円程度もある豊かな自治体です。一般財源は約33億円、一宮町の一般会計が約40億前後ですから、人口のわりに極めて大きな財政規模を誇ります。財政力指数は0.9、経常収支比率は70パーセント台と、羨ましい限りの良好な財政状態です。

 しかし、潤沢な原資があっても、くだらない使い方をして、魅力の無い自治体も多くあります。色々な事情で国から多額の補助金を受けている自治体のうちには、そうした緊張感のない「垂れ流し」型が存在するのも事実です。上野村がそうした凡百の自治体と異なっているのは、各種の施策を行う際に、よく考えてひとつのシステムを作り出すように系列化した投資を行っていることにあります。

 たとえば、今回視察させて頂いた林業関係の施設群です。神田村長は、「出口を考えながら計画を練る」と仰っておられましたが、まさしくそうした思考が、林業資源の利用において巧みなシステムを構成していました。

 まず、杉を中心に山から木材が切り出されます。これを製材所で建築材として成型して製品にするわけですが、その先に一方ではチップを製紙の原料に使います。また一方ではおがくずをペレット工場に供給します。広葉樹はケヤキを中心に、臼、箪笥、盆など、木工品の材料としてつかいます。

 おがくずを使ってつくるペレットは、杉にほかの木材(カラマツなど)を混ぜてつくります。これは町中の各所で暖房のために用いますが、メインは、ペレットを使って発電するバイオマス発電施設につないで、電気と熱を生産します。そしてこの電気と熱を使って、ブナ科の木材のおがくずを使ったシイタケ栽培工場をまわしてゆきます。このきのこ生産の廃菌床は、燃料になるそうで、木材資源は、すべて富を生み出す形で使用され、最低限の廃棄物しかでません。このシステムでは、各結節点で製品を生み出し、そこに経済的な渦が起こりますが、それをまた次の結節点につないで、全体として流れを作っていることに特徴があります。

 本来は、シイタケ生産に用いるおがくずは、村内の樹木由来のものを使うはずだったそうですが、福島原発事故の影響で、放射能汚染が生じたので、今は残念ながら他の地域のおがくずを用いているとのことでした。

 このシステムは、杉をベースに、広葉樹の使用を包含した、面白い系列となっています。上野村では、山林の五割以上が広葉樹林だということですので、杉の人工林ばかりの地域とは大きく異なっています。きのこセンターは本来こうした状況に合わせて広葉樹の一部を本格利用するために作られたものです。

 村長のお話では、バイオマス発電は、年間1500万円位の赤字を前提に動かしている、ということでした。しかし、それによって大きな雇用が生み出され、経済循環が形成されていることから、決して無駄な投資ではない、という話です。一方、きのこセンターは、キノコバエの発生や菌床の早期腐朽などから、対策を余儀なくされ、今経営が思わしくない状況に立ち至っているといいます。ただ、今後きのこセンターについては、様々な努力によって赤字を減らしてゆく戦略を摸索してゆく、とのことでした

 研修一日目の中心が林業関連施設でしたが、次の日は高齢者福祉関係の施設を拝見しました。これもひとつの系列をなしており、見事な複合施設群となっていました。

 まず社会福祉協議会の事務棟が、僻地診療所の建物につながっています。そしてそのまわりに、運動施設・入浴施設などがあります。またその先にはグループホーム、高齢者住宅などがあり、すべてがわたり廊下で結ばれ、ひとつのコンパウンドをなしていました。特別養護老人ホームだけは、20キロほど離れたところにある神流町と上野村の住民だけが入居する施設で手当てをしている、とのことでしたが、ほぼ高齢者に必要な施設は上野村ではひとつの区域にまとまって建てられているのです。

 行政が作る施設は、ともすれば単発のものの羅列となり、体系性・関連性が欠如していて、散漫になりがちです。これは、構想が貧弱なことによるものだと思います。わが一宮町でも、今後はこれまで以上に体系的な構想が求められると己のこととして感じました。多くのことを学んだ実り多い研修でした。