町長日記2018年8月3日(地域農政未来塾オープンセミナーに参加)

   今日は、東京の永田町にある全国町村会館で開かれた「地域農政未来塾オープンセミナー」に参加いたしました。10時半の開始ということで、念のために7時半に一宮を出発しましたが、事故渋滞などで、案に相違して1時間遅れの到着となりました。会場に入ってみると、二人目の報告者の方が話しておられました。この方は、地域農政未来塾の2期生の方で、京都府与謝野町農林課職員の井上公章氏です。IT技術などを活かして、直売所への農家の出荷を楽にするシステムなどを開発されたそうです。ご自身の経験をもとに、あとに続いてほしいと、若い世代の方々を鼓舞しておられました。
 今回のオープンセミナーは、地域農政未来塾の活動の一環として行われたものです。地域農政未来塾というのは、全国町村会が行っている企画で、町村の農政担当等の職員を対象に、「地域の課題に対応した農業・農村政策を実践できる農政担当者の養成をめざして」(全国町村会HP)、開かれている講座を中心とした塾です。期間は1年、毎年定員は20名ということで、今年で3年目だそうです。
 午後1時からの後半の部分は、対談形式で行われた二つのセッションからなっていました。最初は、イギリス出身で滋賀県日野町にお住いの、ウェブデザインをご専門とされるクリエイティブ・ディレクター、トム・ヴィンセント氏と、学習院女子大の教授で、地域農政未来塾の講師である荘林幹太郎氏との対談です。人口が少ない町村こそ、現場に即してさまざまなことができる自治実践の最先端の場所であることを、お二人は強調しておられました。役場職員の諸君にそうした気概をもってほしい、ということです。また、町村の魅力として、美しい景観がきわめて重要であるが、日本ではその意義についての自覚が乏しいので、意識を高めてほしい、というお話もありました。トム氏は、ご自身で古民家を修理して住んでおられるそうです。わたくしもそうした住宅に住んでいるのですが、そういう試みがもっと増えることが、景観維持・向上のためにも重要だと思います。これを役場が先導して行うには、日本ではまだ条件が整っていませんので、まずは民間の力で行うしかないのだと思います。そういう方がもっと現れて頂けることを、期待したい気持ちです。
 後半は、もともと三重県多気町の職員であった皇學館大学教授の岸川政之氏と、地域農政未来塾の主任講師で、明治大学客員教授の榊田みどり氏の対談でした。岸川氏は、京都の大学を卒業後、多気町役場に入り、税務・教育委員会・総務を経て、農業部門に移って、さまざまな方面から地域おこしの事業を担ってこられた方です。多気町に高校があり、調理の道に進むかたが多いということをふまえて、高校生食堂というものを立ち上げたご経験をお持ちです。この高校生食堂は、すでに15年もの実績をもっているそうです。当初、民間の寄付をもとに400万で屋台形式ではじめたものが、うまくいって町で9000万出して立派な設営を行い、順調に推移して今日に至る、だそうです。
 まず、目標を定める目線の高さがすばらしいと感じました。たとえば、繊維の学校があったなら、素材からデザインからすべて工夫して、パリコレに出ることを目標にやる、というのです。田舎の高校生が、パリコレですか?と普通なら、誇大妄想だとして相手にされないたぐいの発想でしょう。しかし、岸川氏は、それでなければ面白くもなんにもない、というのです。一事が万事、そういう調子で、高く目をつけてゆくのです。これがまず、大きな特徴です。それは、若い人を鼓舞して、その方々がもっとも輝く舞台を設定する、ということをモットーにものを考えます、という形でも語られました。
 そして、面白く感じることをやるのだ、ということも、一貫した姿勢でいらっしゃいました。あとは、敵を作らない、なるべく多くの方と、現場をともにして信頼関係を築く、など、わたくしも日頃モットーとしていることと重なることが多くありました。
 セミナーを通じて感じたことは、やはり、キーパーソンの存在の大事さです。個々の人が、自分の人生の中で、どうふるまうか。「普通」とは違った発想ができて、周りによい波及効果をもたらす、実行力ある心意気の人、そういう人がおられるかどうか。そういう方がいるかどうかで、ことの帰趨は決まります。わたくしどもの役場でも、そういう方がお一人でも増えてゆくことを祈念して、会場をあとにしました。
 なお、わたくしとしては、町長の立場にあるものとして、自治体リーダーのあるべき形について、職員でおられた時の経験を踏まえて、岸川先生のご意見を伺いたく思いました。しかし時間もありませんでしたので、それはまた次の機会といたしました。